最近入荷した靴の中で当時こんな値段で良かったの?と驚くべく一足が入荷しました。それがこのREGAL TOKYOのミランダと名付けられた一足。
リーガルトーキョー W551 miranda【ミランダ】ブラック Uチップ アノネイボカルー ハンドソーン 9分仕立て ドーバー スキンステッチ サイズ24
こちらは日本の革靴の雄リーガル。その旗艦店である銀座の「REGAL TOKYO」から9年前にリリースされたお品物。当時のリーガルトーキョーさんのブログを拝見するとどうやら、元々リーガルトーキョー内の工房産の九分仕立てパターンオーダーでしか扱っていなかったライトアングルモカ手縫いを既成ラインとしてラインナップする上で、既成ラインを委託している工場に工房の職人さんが出向き、かなり時間をかけて指導に当たるまでしてリリースした渾身の一作だったようです。
恐らくその工場とは現在はリーガルの完全子会社でシェットランドフォックス等、既成最上級ラインの生産を請け負う新潟のチヨダシューズかと思います。
一昔前はライセンス契約でジョンストン&マーフィー(後にリーガル、そして現在は大塚製靴がライセンス契約)、リーガルイーストコーストコレクションの生産もしておりました。
私も昔、オールデンの1339コードバンチャッカブーツに憧れを抱く中、チヨダシューズ製ジョンストン&マーフィーのコードバンチャッカブーツは比較的安く手に入るので、そちらを買って、初めて靴磨き屋さんで鏡面磨きを教わった思い出深い一足ですね。若干サイズもタイトめにしすぎてたのと、後に1339を手にしたこともあって手放したのですが、革のクオリティ、吊り込み、底付けすべてが高水準でもうハーフアップのものがあればまた手に入れたい一足です。
その証といってはなんですが、最近チヨダシューズからREGALTOKYOビスポーク工房に異動した方もいらっしゃるようです。
...前置き長くなりました。さて靴を詳しく見ていきましょう。
まずは先述の通り、ライトアングルのモカ。南橋針(フマズ針)という専用の工具で先に一つ一つ穴あけしていくのですが、この穴を開けていく際の方向や加減が難しく、コツを掴むまではかなり時間を要すようです。詳しい説明は記事がひとつまだできてしまうので割愛しますが、パターンの裁断時でも重ね合わせる部分の兼ね合いを考えなくてはいけなくてとにかく気を使う手の混んだ仕様です。
代表的なエドワードグリーンのドーバーやウエストンの677、ハントダービーのモカ縫いもごく数人しか担当していないようです。
アッパーはアノネイ社のボカルー。非常に極めが細かく透き通るような艶感はここ最近で目にした同じアノネイカーフを凌駕しております。かなりいい部位を取ったなと見て取れます。
製法はハンドソーン、手での吊り込みです。
ラストを忠実に再現できることにより全体のフィット感の向上はもちろん、ライトアングルのモカ縫いの部分は吊り込み時大きくテンションがかかる部分なので、機械で容易に行わず吊り込む一箇所一箇所のかけ具合をその箇所の革の状態によって感覚的な微調整を行うハンドソーンのほうがよち強度が増します。出し縫いは機械ですがこちらは履き着心地や強度には影響を与えない箇所になります。
ハンドソーンの特徴の一つにこのアッパーとウェルトとの境目。「くの字」に入り込むのがより顕著です。
目付けやウェルトも非常に細かいですね。修理する際は大変です笑
サイドを眺めてみましょう。
前半分にミッドソールがあるスペードソール(ハーフミッドソール)になっています。踏まずから後ろにかけては絞り込んだようなドレス要素を取り入れつつ、一番削れやすい前方はダブルにすることによって耐久性、クッション性を上げております。エドワードグリーンのドーバーも同じ仕様ですのでこれに習ったようにしたのかと思われます。
続いては本底を見てみましょう。
レザーソールでヒドゥンチャネルの半カラス仕上げになっております。
リーガルトーキョーの紋章の桜が焼印された特別な仕様。英国靴テイストでありましたがさり気なくここに日本の靴だという証があるとなんだか落ち着きます。
このように細部を見れば見るほど、とにかく手間のかかることてんこ盛りです。これを2011年当時はなんと税込6万3000円で出されていたのだそう。私はそれを知ったとき衝撃が走りました。2013年以降このミランダに関するそれらしい情報が見当たらないことから、その時期を境に廃盤になったのかと思われます。流石にこの金額で採算は取れないことは明白ですし、おそらく今ではこのクオリティのものを作ろうとなると下代だけでも上記の金額はかかる可能性があります。
現行でリーガルではシェットランドフォックス名義の中に既成のライトアングルのモカ縫いのモデルがあります。発売の時系列上恐らくミランダを制作する際の技術・経験を元に作り出したラインナップかと思います。ちなみに現行シリーズはグッドイヤーウェルトになっています。若干切り返しも違うものの、ミランダはこれらの元祖といってもいいかもしれませんね。
当店は当時の定価とほぼ変わらないお値段を設定しておりますが、確実にこのお値段以上にご納得して頂ける一足です。また未使用状態で長年大切に所有して頂いた前所有者様には感謝の気持ちも込めてしっかりお買取額もつけさせて頂きました。
買い取ってもらえるお客様にも満足してもらい次の所有者様に出会えるまでのバトンとして、当店が本当に価値のある靴の魅力を最大限伝える役目を持つことを信念において今回の執筆をさせて頂きました。少々熱が入りすぎたかもしれませんが、それぐらい素晴らしいものなんです。
因みにサイズ感と致しまして、オールデン バリーラスト6.5 エドワードグリーン ドーバー 32ラスト 6Eを履かれる方であればおおよそ適合するかと思います。フィット感の好みや個人差はありますのでご不安であれば店頭にて試着も可能です。
こちらオンラインでの販売開始は週明け17日火曜21時となっております。是非ともご検討くださいませ。